
後編:二代目として作り続ける。
変えゆくもの
ジンギスカンの味を最も大きく左右する要素は、羊肉を浸け込む「タレ」といえます。
平田さん以外、誰も調合の詳細を知らない秘伝とも言えるタレだけに、創業以来変わらない味を守り続けているのでは…と思い話を聞くと、平田さんが継いでから味にアレンジを加えている、と予想外の答えが返ってきました。
「父親が作っていた頃のタレは辛かった。今は、もちろんベースは変えていないけど、以前に比べると甘めの味付けにしてるんだよね」
もちろんタレ自体が美味しくなかったらダメだよ、と前置きをして平田さんは続けます。
「例えば、家族のなかでお父さんとお母さんは辛い味が好きだとしても、おじいちゃんやおばあちゃん、そして子供は甘めがいい、ってことはあるよね。塩分を控えたい、っていう気持ちを持っている人もいるだろうし。
そんな時、甘めのタレであればコチジャンや醤油を加えてもらえばタレの美味しさを保ちながら辛さも自由に決めてもらえるでしょ。反対に、もともと辛いタレを甘くするのは難しいけど。味を甘めにしておくことで、甘めが好きな人はもちろん、辛めが好きな人にも自分の好みに調整してもらいながら美味しくジンギスカンを食べてもらえるのさ」
子供やお年寄りも含めた全ての人に、好みの味で美味しくジンギスカンを食べていただくために。
平田さんが加えたアレンジは、そんなちょっとした優しさから生まれたのです。
想い出の味となるように
冒頭でご紹介した通り、なんぽろジンギスカンの創業は昭和39年です。今年(2010年)で創業から46年、創業時に20歳だった方はすでに60歳を超えるほどの長い時間のなかで、多くの人々にジンギスカンは届き、そして食べられてきました。
平田さんにお聞きすると、その長い経営のなかでは、30年以上に渡って買いに来てくれる常連さんがいる一方、こんなエピソードもあったそう。
「昔、南幌町に住んでいた人が20何年ぶりに戻ってきて、喜んでウチのジンギスカンを買っていってくれたことがあって、それだけ長い時間が経ってもジンギスカンの味を忘れずに買いに来てくれたのは嬉しかったね」
私たちが暮らすこの世界では、時間をかけなければ作り出せないものがあります。
それは「美味しさ」であったり、そして人の心に残る「記憶」であったり。
作業が深夜に及ぶような忙しいなかでも丁寧に脂身を取り、頑なに同じ手順でタレを作り続けるからこそ、美味しいジンギスカンを作ることが出来、そして食べた方の心に記憶として残る。でなければ、46年という長い期間ブランドが続くことなどあり得ません。
コツコツと積み重ねた時間の長さこそが、なんぽろジンギスカンの美味しさと誠実さの証左と言えるのです。
「南幌町は、札幌に近いが故に人口が減ってしまっている。この街で育った人間としてそれは寂しいけれど、ふと南幌という名前を聞いた時、うちのジンギスカンを思い出してくれたりすると嬉しいね」
誰かの心で想い出の味となるために、なんぽろジンギスカンでは今日も、そして明日も、時間をかけて美味しいジンギスカンを作ります。